判断能力の低下した人を支援するための「後見人制度」について

認知症や、病気・事故などによって意思疎通が困難になると、お金の管理や契約などが法律的に難しくなります。

そういった場合に、ご本人に代わってお金などの財産を管理したり、様々な支払いや契約をおこなう人(=後見人)をつけてもらう手続きです。

 

厳密には、ご本人の認知機能や判断能力の程度によって、「補助→保佐→後見」と段階が分かれたりもするのですが(後者の方が判断能力が低い)、ここではひとまず「後見」という段階に絞ってお話します。

また、説明をシンプルにするために、ご本人が、意思疎通が難しいレベルの認知症になった場合という前提とします。

 

後見人制度大きく分けると、

 

①法定後見

②任意後見

 

の2つに分かれます。

<法定後見>

法定後見は、すでにご本人様が認知症になってしまった後で、裁判所で後見人を選んでもらう制度です。

ポイントは2つです。

 

ご本人がすでに認知症

法定後見は、ご本人がすでに認知症になってしまった後で、後見人が必要な事態に陥ったためにおこなう手段です。

ご高齢のお1人暮らしの方の場合、多くは担当のケアマネージャーの方やヘルパーの方などからの声に応じて、我々のような専門家が手続きをすることが多いように思われます。

 

後見人を決めるのは裁判所

裁判所への申立ての際に、後見人の候補者を立てることは可能ですが、最終的に決めるのは裁判所になります。

したがって、ご本人や周囲の方の希望が、必ずしも通るかどうかはわかりません。

 

法定後見は、正確には老後(認知症)への「対症療法」であるものの、事前の対策ではありません。

 

すなわち、

「事前の準備をせずに認知症になってしまった」ことにより、

「後見人をつけなければならなくなった」ため、仕方なく頼らざるを得ない制度、これが法定後見です。

 

最大の問題点は、ほとんどの場合において、後見人となる人を自分で選ぶことができないという点です。

 

その方にとっては、ご自身が亡くなるまで、一生大事な財産を預かってもらう人です。

それが一体どこの誰になるかがわからないというのは、(たとえご本人の判断能力がすでに低下しているとはいえ)ご本人にとって喜ばしいことかどうかは疑問です。

 

私たちも後見人のお仕事をさせて頂く機会はあるのですが、この制度に頼ることに若干のためらいを感じていることは事実です。

 

というのも、この制度によって後見人になった場合、そのほとんどのケースで、すでにご本人様がある程度認知症が進んだ段階で、初めてお会いすることになります。

そのため、その方がお元気だったころに、どのような性格の方で、どういった老後の生活を望んでいたのか、ほとんど知る機会がないのです。

ましてや、ご家族がいらっしゃらない方の場合は、周囲の方からそういったお話を聞くこともできません。

 

そのような状況で、その方が亡くなるまで、後見人として寄り添うことが、果たして十分にできるのか、常に自問してしまいます。

そういったことからも、今現在まだお元気な方は、ぜひ<任意後見制度>をご検討頂きたいと思います。

<任意後見>

任意後見は、ご自身が元気なうちに、将来のご自身の後見人になってもらう人をあらかじめ決めておく制度です。

こちらのポイントは3つです。

 

①ご本人が元気なうちに決めておく

任意後見は、将来後見人になってもらう人との「契約」になります。

そのため、契約当事者であるご本人がお元気なうちでないとできません

すでに認知症になってしまった後で利用する<法定後見>とは対照的ですね。

 

②後見人を決めるのはご本人

将来後見人になってもらう人は、ご本人が自由に決めることができます

もちろん、相手方がOKしてくれれば、という前提ではありますが、ご家族、ご友人、場合によっては専門家など、ご本人が、「この人になら将来財産を預けても大丈夫」という、安心できる方を選ぶことができます。

 

③効力が発生する(財産を預かってもらう)のはご本人が認知症になってから

任意後見は、元気なうちに契約だけおこない、実際に財産を預かってもらうのは、ご本人が認知症になってから(ご自身での管理が難しくなってから)になります。

契約したからと言って、すぐに財産を預けるわけではありません。

また、将来認知症になることなく、最期までお元気でいらっしゃった場合は、後見人の出る幕はありませんが、それはそれで喜ばしいことだと思います。

 

こちらの任意後見は、老後への事前対策と呼べるでしょう。

 

なんといっても、ご本人が元気なうちに、ご自身が安心できる相手を選んで頼んでおくことができる、というのが最も大きいメリットです。

 

もちろん、その相手方となる方は、ご本人が将来財産を預けてもいいと思える方ですから、従前から何らかのお付き合いがあって、ご本人のことをある程度良く知っている方でしょう。

すなわち、法定後見と違って、財産を預かる後見人が、「従前のご本人の人となりをほとんど知らない」ということは少ないと思います。

 

 

それは、ご本人にとってはもちろんのこと、後見人にとっても好ましいことは間違いありません。